1.概要
本日取り上げる小説の舞台は、題名にもある通り、三国志の中でも序盤の山場である官渡の戦いが描かれます。

吉川英治三国志では、本初即ち袁紹の陣営がぼんくらで仲間割れが多く、最終的に勝っていた軍を、鵜層の兵糧を焼かれたことで大敗し、袁家滅亡となったように記憶しています。
しかし、この物語では、曹操は全く本初にかなわず、思い悩み、耐え忍びさまが、これでもかこれでもかと延々と続きます。
本初側に裏切り者がいたことで、決定的な敗北にはつながらず、兵糧は焼き払ったけれでも、何とか本初の軍を撤退させただけという有様です。
この本では、本初は良家の坊ちゃんですが、全体をうまくまとめるリーダーシップを持った男として描かれています。
結局、袁家は袁紹亡き後、曹操に滅ぼされてしまうわけですが、袁紹が生きている間は、曹操は手を出せなかったというふうに書かれています。
2.永青版三国志を楽しんでください
この著者の描く三国志の世界は、吉川英治と全く違っていて、非常に面白いです。
相変わらず、吉川英治の三国志では「いいもの」だった劉備はやくざ者で、袁紹をうまく焚き付けて曹操と戦わせる形になっています。
また、関羽は、猪突猛進型の武将で、大軍を預けることはできないと断じられています。
吉川英治の三国志では、関羽は仁義の将で、曹操に迎え入れられてから、曹操のもとを去るまで、かなりのページが割かれていましたが、この本では、さっと登場して、あれっと気がつくと、既に退場しています。
顔良を屠る場面は書かれていますが、文醜との戦闘場面は回顧の中にしか出てきません。
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この人の描く諸葛亮孔明も見たかったですが、まだまだ、三国志の序盤の物語ですから望むべくもなく・・・。
久々の吉川永青の三国志でしたが、曹操の苦しみ、葛藤、悩みなど、ひたすら耐えまくる場面を長々と見せられ、少々疲れてしまいました。
本初側の裏切り者が、自分を高く売るために、なかなか接触してこないため、曹操はものすごく疲弊してしまいます。こんな所も、吉川栄治と違い、人間曹操が描かれていると思います。
とにかく、この人の描く三国志は、登場人物が魅力的で、また読みたくなってくるのです。
是非、ご一読を。