殿軍や負け戦に直面するそれぞれの武将の思惑が興味深い!戦始末 矢野隆/著

1.概要

2008年『蛇衆』にて第21回小説すばる新人賞を受賞した著者の作品です。

殿軍や負け戦に直面する武将たちの心境を描いています。

殿軍とは、「大部隊が移動する時、その最後部(=殿)に位置する軍勢のことです。特に、退却軍の後部で、敵の追い討ちを防ぐ軍勢です。ですので、負け戦の時などは生き残る可能性が低いんです。

この殿軍を任され、無事にやり遂げると、その勇猛さを認めてもらえるというメリットがありますが、生き残ってなんぼですので、非常に厳しい役割です。

この作品は、そんな状況に置かれた七つの物語が載っています。

主人公は、「金ヶ崎の退(の)き口」の殿軍を率いた秀吉と光秀、設楽原の馬場信春、賤ケ岳の柴田勝政、小牧山攻めの堀秀政、岩屋城の高橋紹運、「関ケ原島津の退(の)き口」の島津義弘、そして関ケ原敗戦後の石田三成です。

それぞれ、とんでもない役割を課せられた武将達の思いや愚痴、子孫の栄達を考えて戦に身を投じた武将たちの最後の姿を描いています。

内容紹介です(「BOOK」データベースより)。

関ヶ原で大勢が決したのち敵中突破を図った「島津の退き口」。窮地に陥った織田信長を救い、秀吉の出世の足がかりとなった戦国の“オールスター殿軍戦”「金ヶ崎の退き口」…。戦国で最も過酷な戦―殿軍戦を堪能せよ。

2.内容ちょっぴり

七編の物語と主人公です。

  • 禿鼠の股座  木下秀吉、明智光秀
  • 夢にて候   馬場信春
  • 勝政の殿軍  柴田勝政
  • 四方の器   堀秀政
  • 孤軍     高橋紹運
  • 丸に十文字  島津義弘
  • 我が身の始末 石田三成

「禿鼠の股座」は、信長の越前攻めの最中、浅井長政が裏切って、撤退戦となる「金ヶ崎の退き口」を題材に取っています。貧乏くじを引いた木下秀吉、明智光秀は、この仕事をやり遂げ、他の武将に一目もニ目もおかれますが、その散々な闘いの心境が語られます。

「夢にて候」は、設楽が原の武田の負け戦の中の馬場信春の心境が、過去の栄光の中の出来事と並行して語られます。死に行く武将の最後の葛藤です。

「勝政の殿軍」の柴田勝政は、不満たらたらの殿軍となりますが、こちらは退く時期を誤り生き残れませんでした。

「四方の器」の堀秀政は、秀吉、家康の争った小牧・長久手の戦における見事な撤退戦を行った経過が語られます。秀吉に褒められますが、自らの失敗を繰り返さないという心境が素晴らしいです。

「孤軍」の高橋紹運は、自らの命を捨てて、我が家の子である立花宗茂への餞として散った武将です。紹運の狙い通り、宗茂は秀吉の下で出世を遂げます。

「丸に十文字」は関ヶ原の戦の終局直前に島津軍が戦場を突破した「関ケ原島津の退き口」が舞台です。島津義弘は、甥の豊久以下の部下を大多数失いながらも、自らの意志を押し通して鹿児島に帰還するのです。

最終話「我が身の始末」は、関ヶ原敗戦後の石田三成の自らの始末をつけようと決めるまでの心境が語られます。

いずれの物語も面白いです。

是非、ご一読ください。